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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)21号 判決 1977年10月27日

原告 誠悟商事株式会社

被告 麻布税務署長

訴訟代理人 島村芳見 高橋実 ほか三名

主文

1  被告が昭和四六年六月三〇日付で原告の昭和四二年四月一日から同四三年三月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和四六年六月三〇日付で原告の昭和四三年四月一日から同四四年三月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税賦課決定のうち所得金額二、一七四、八五九円を超える部分を取り消す。

3  被告が昭和四六年六月三〇日付で原告の昭和四四年四月一日から同四五年三月三一日までの事業年度の法人税についてして更正及び重加算税賦課決定のうち所得金額四、七四六、五九三円を超える部分を取り消す。

4  原告のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用はこれを六分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四六年六月三〇日付で原告の昭和四二年四月一

日から同四三年三月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和四六年六月三〇日付で原告の昭和四三年四月一日から同四四年三月三一日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額一、一五九、二三六円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち同税額九四、八〇〇円を超える部分を取り消す。

3  被告が昭和四六年六月三〇日付で原告の昭和四四年四月一日から同四五年三月三一日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額三、九六三、四八八円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち同税額八九、二〇〇円を超える部分を取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二原告の請求原因

一  原告は、その肩書地(昭和四六年五月一五日東京都港区芝中門前三丁目一〇番地から本店移転)において金融業を営む同族会社であるが、原告の昭和四二年四月一日から同四三年三月三一日までの事業年度(以下「四二事業年度」という。)、同四三年四月一日から同四四年三月三一日までの事業年度(以下「四三事業年度」という。)及び同四四年四月一日から同四五年三月一三日までの事業年度(以下「四四事業年度」という。)の法人税について、原告のした各確定申告、これに対して被告のした各更正及び各重加算税賦課決定並びに国税不服審判所長のした各審査裁決の経緯は、別表一記載のとおりである。

二  しかしながら、右各更正(右各審査裁決によつて維持された部分。以下「本件各更正」という。)は、次に述べるとおり違法であり、したがつて右各更正を前提としてされた右各重加算税賦課決定(右各審査裁決によつて維持された部分。以下「本件各決定」という。)も違法である。

1  四二事業年度の更正は、国税通則法第七〇条第二項第四号規定の要件がないのに法定申告期限から三年を経過してされたもので違法である。

2  四二事業年度の更正、四三事業年度の更正のうち所得金額一、一五九、二三六円を超える部分及び四四事業年度の更正のうち所得金額三、九六三、四八八円を超える部分は、いずれも原告の所得金額を過大に認定したもので違法である。

三  よつて、原告は被告に対し、四二事業年度の更正及び重加算税賦課決定、四三事業年度の更正のうち所得金額一、一五九、二三六円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち同税額九四、八〇〇円を超える部分並びに四四事業年度の更正のうち所得金額三、九六三、四八八円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち同税額八九、二〇〇円を超える部分の取消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

二  本件各更正は、以下に述べるとおり適法である。

1  原告は、四二事業年度開始直前の昭和四二年二月一六日に第一勧業銀行(旧日本勧業銀行。以下同じ。)渋谷支店に原告の仮名預金である井上高名義の普通預金を、更に昭和四三年一月九日に協和銀行渋谷支店に原告の仮名預金である井上建司名義の通知預金をそれぞれ設定し、以後同事業年度中に原告の取引先である株式会社アサヒナ綜合経済研究所(以下「アサヒナ」という。)外一一者から収受した収入利息を右各預金に入金していたにもかかわらず、同事業年度の法人税確定申告に際し右収入利息の一部を除外して申告した。これは、明らかに国税通則法第七〇条第二項第四号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当するから、当該条項を適用してした同事業年度の更正は適法である。

2  原告の本件各事業年度における所得金額及びその計算根拠は、次のとおりである。

(一) 四二事業年度

(1) 原告の申告所得金額に加算する金額

売上(収入利息)計上漏れ、三、五七二、〇〇九円、原告は、その取引先であるアサヒナ外一一者から本事業年度中において別表

二記載のとおり総額五、九四一、三四九円の収入利息を受け入れていたので、右総収入金額から原告の申告に係る総収入金額二、三六九、三四〇円を控除した三、五七二、〇〇九円を売上(収入利息)計上漏れ金額と認定した。

(2) 原告の申告所得金額から減算する金額

簿外経費 八七一、二七八円

右簿外経費の内訳は、次のとおりである。

ア 一般的経費 二七一、二七八円

原告は本事業年度について帳簿書類の記録保存をしておらず、簿外の経費の支出を証する書類等は全くないので、簿外の一般的経費は推計によつて算出するほかない。そこで、原告の総収入金額五、九四一、三四九円に同業者の平均経費率一五・七二パーセントを乗じて算出した一般的経費の額九三三、九八〇円から原告の申告に係る一般的経費の額六六二、七〇二円を控除した二七一、二七八円を一般的経費の計上漏れ金額と認定した。

右同業者の平均経費率の算出根拠は、次のとおりである。

原告の本店所在地である港区を管轄する麻布税務署及び芝税務署管内に納税地を有する原告と同様貸金業を営む法人(サラリーマン金融及び兼業法人を除く。)のうち原告の本事業年度に対応する事業年度について実地調査を行なつた全法人(推計により所得金額を認定したもの、更正又は決定を行なつたもので国税通則法の規定に基づく不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの及び当該処分に対して不服申立て又は提訴されて現在審理中のものを除く。)を抽出し、その売上(収入利息)金額に対する一般的経費の額の割合を計算し、別表五記載のとおり平均経費率を求めたものである。

イ 特別経費 六〇〇、〇〇〇円

簿外で支出した大久保昌子の給料六〇〇、〇〇〇円を特別経費の計上漏れ金額と認定した。

(3) 課税所得金額 三、〇一三、五四四円

原告の本事業年度における課税所得金額は、原告の申告所得金額一七一、〇三〇円に前記(1)の売上計上漏れ金額三、五七二、〇〇九円及び青色申告の承認の取消しに伴う貸倒引当金の繰入否認額一四一、七八三円を加算し、前記岡の簿外経費八七一、二七八円を減算した三、〇一三、五四四円である。

よつて、本事業年度の更正の所得金額二、八五五、六七一円は、被告が本訴において主張する右課税所得金額の範囲内であるから、右更正は適法である。

(二) 四三事業年度

(1) 原告の申告所得金額に加算する金額

売上(収入利息)計上漏れ 一〇、八〇六、九一四円

原告は、その取引先であるアサヒナ外四者から本事業年度中において別表三記載のとおり総額一二、〇九一、二三三円の収入利息を受け入れていたので、右総収入金額から原告の申告に係る総収入金額一、二八四、三一九円を控除した一〇、八〇六、九一四円を売上(収入利息)計上漏れ金額と認定した。

(2) 原告の申告所得金額から減算する金額

簿外経費 二、一五八、八四四円

右簿外経費の内訳は、次のとおりである。

ア 一般的経費 一、五五八、八四四円

前事業年度についてと同様の理由により、本事業年度についても簿外の一般的経費は推計によつて算出するほかない。そこで、原告の総収入金額一二、〇九一、二三三円に同業者の平均経費率一四・三三パーセントを乗じて算出した一般的経費の額一、七三二、六七三円から原告の申告に係る一般的経費の額一七三、八二九円を控除した一、五五八、八四四円を一般的経費の計上漏れ金額と認定した。

右同業者の平均経費率の算出根拠は、前記(一)の(2)のアと同様であり、別表六記載のとおりである。

イ 特別経費 六〇〇、〇〇〇円

簿外で支出した大久保昌子の給料六〇〇、〇〇〇円を特別経費の計上漏れ金額と認定した。

(3) 未納事業税認定損 二一六、三〇〇円

前事業年度の課税所得金額三、〇一三、五四四円に対する事業税額は、次のとおり二二六、五六〇円であり、右金額から原告の申告に係る事業税額一〇、二六〇円を控除した二一六、三〇〇円を未納事業税と認定した。

前事業年度の課税所得金額3,013,544円のうち

1,500,000円以下の金額の100分の6

1,500,000円×(6/100)= 90,000円

1,500,000円以下の金額の100分の9

1,500,000円×(9/100)= 135,000円

3,000,000円を超える金額(1,000円未満切捨て)の100分の12

13,000円×(12/100)= 1,560円

合計 226,560円

(4) 貸倒引当金繰入否認額認容 一四一、七八三円

前事業年度において損金繰入額を否認した貸倒引当金一四一、七八三円を、原告は本事業年度において取り崩し益金の額に算入しているので、右金額を原告の申告所得金額から減算した。

(5) 課税所得金額 八、三一九、二三二円

原告の本事業年度における課税所得金額は、原告の申告所得金額二九、二四五円に前記(1)の売上計上漏れ金額一〇、八〇六、九一四円を加算し、前記(2)の簿外経費二、一五八、八四四円、前記(3)の未納事業税認定損二一六、三〇〇円及び前記(4)の貸倒引当金繰入否認額認容一四一、七八三円を減算した八、三一九、二三二円である。

よつて、本事業年度の更正の所得金額七、七四三、九九五円は、被告が本訴において主張する右課税所得金額の範囲内であるから、右更正は適法である。

(三) 四四事業年度

(1) 原告の申告所得金額に加算する金額

売上(収入利益)計上漏れ、 四、八三二、七九〇円

原告は、その取引先であるアサヒナ外三者から本事業年度中において受け入れた別表四記載の総額四、八三二、七九〇円の収入利息を計上せず申告から脱漏していたので、右金額を原告の売上(収入利息)計上漏れ金額と認定した。

(2) 原告の申告所得金額から減算する金額

簿外経費 三〇〇、〇〇〇円

右簿外経費の内訳は、次のとおりである。

ア 一般的経費 〇円

原告は本事業年度について帳簿書類の一部を保存しているのみで、簿外の経費の支出を証する書類等がないので、簿外の一般的経費は推計によつて算出するほかない。そこで、原告の総収入金額一八、二三七、六二六円(原告の申告に係る総収入金額一三、四〇四、八三六円に前記(1)の売上計上漏れ金額四、八三二、七九〇円を加算した額)に同業者の平均経費率一四・一九パーセントを乗じて一般的経費の額を算出したところ、その額二、五八七、九一九円は、原告の申告に係る一般的経費の額二、六五〇、五〇三円を下回るので、簿外の一般的経費はないものと認定した。

右同業者の平均経費率の算出根拠は、前記(一)の(2)のアと同様であり、別表七記載のとおりである。

イ 特別経費 三〇〇、〇〇〇円

簿外で支出した大久保昌子の給料三〇〇、〇〇〇円を特別経費の計上漏れ金額と認定した。

(3) 未納事業税認定損 八六一、五四〇円

前事業年度の課税所得金額八、三一九、二三二円に対する事業税額は、次のとおり八六三、二八〇円であり、右金額から原告の申告に係る事業税額一、七四〇円を控除した八六一、五四〇円を未納事業税と認定した。

前事業年度の課税所得金額8,319,232円のうち

1,500,000円以下の金額の100分の6

1,500,000円×(6/100)= 90,000円

1,500,000円を超え3,000,000円以下の100分の9

1,500,000円×(9/100)= 135,000円

3,000,000円を超える金額(1,000円未満切捨て)の100分の12

5,319,000円×(12/100)= 638,280円

合計 863,280円

(4) 課税所得金額 六、六六五、二四三円

原告の本事業年度における課税所得金額は、原告の申告所得金額二、九九三、九九三円に前記(1)の売上計上漏れ金額四、八三二、七九〇円を加算し、前記(2)の簿外経費三〇〇、〇〇〇円及び前記(3)の未納事業税認定損八六一、五四〇円を減算した六、六六五、二四三円である。

よつて、本事業年度の更正の所得金額六、四五九、二八九円は、被告が本訴において主張する右課税所得金額の範囲内であるから、右更正は適法である。

三  本件各決定について

原告は、本件各事業年度において原告の取引先であるアサヒナ外十数者から収受した収入利息を第一勧業銀行渋谷支店外数行に設定した原告の仮名預金に入金していたにもかかわらず、本件各事業年度の法人税確定申告に際し右収入利息の一部を除外して申告した。これは、明らかに国税通則法第六八条第一項に規定する仮装隠ぺいに基づく納税申告に該当するから、当該条項を適用してした本件各決定は適法である。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告の主張に対する認否

第三の二の1のうち、被告主張の事実は認めるが、右事実が国税通則法第七〇条第二項第四号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する旨の主張は争う。

第三の二の2の(一)のうち、(1)の原告の申告に係る総収入金額が二、三六九、三四〇円であること、(2)のアの原告の申告に係る一般的経費の額が六六二、七〇二円であること、(2)のイの大久保昌子に支出した給料六〇〇、〇〇〇円が簿外の特別経費であること及び(3)の青色申告の承認の取消しに伴う貸倒引当金の繰入否認額が一四一、七八三円であることは認める。別表二記載のうち、アサヒナの番号1、2のうち九八、八五〇円、3ないし11、13ないし18、19のうち七七、二五〇円、20、21、東栄電化株式会社(以下「東栄電化」という。)の番号1、2、3のうち二六、二五〇円、4ないし6、8ないし19の収入利息合計一、六七四、〇九九円を受け入れたことは認めるが、その余は否認する。アサヒナの番号2のうち七〇、〇〇〇円、12、19のうち一七〇、〇〇〇円は元金であり、東栄電化の番号3のうち六五〇、〇〇〇円は元金、7はアサヒナからの元金である。その余の主張は争う。

同(二)のうち、(1)の原告の申告に係る総収入金額が一、二八四、三一九円であること、(2)のアの原告の申告に係る一般的経費の額が一七三、八二九円であること、(2)のイの大久保昌子に支出した給料六〇〇、〇〇〇円が簿外の特別経費であること、(3)の原告の申告に係る事業税額が一〇、二六〇円であること及び(4)の貸倒引当金繰入否認額認容が一四一、七八三円であることは認める。別表三記載のうち、アサヒナの番号1、5、6、10、13、19、21、24、26、28、ないし31、34、36、38、39、41、43、44、東栄電化の番号1ないし26の収入利息合計四、七八一、五九〇円を受け入れたことは認めるが、その余は否認する。アサヒナの番号32、37、40は元金である。その余の主張は争う。

同(三)のうち、(2)のアの原告の申告に係る一般的経費の額が二、六五〇、五〇三円であること、(2)のイの大久保昌子に支出した給料三〇〇、〇〇〇円が簿外の特別経費であること及び(3)の原告の申告に係る事業税額が一、七四〇円であることは認める。別表四記載のうち、アサヒナの番号1、3、6、10、ないし12、東栄電化の番号1ないし7の収入利息合計二、二〇一、五二〇円を申告において収入に計上せず脱漏していたことは認めるが、その余は否認する。もつとも、東部自動車販売株式会社(以下「東部自動車」という。)及び神元四郎に対して原告が貸付をしたことはないが、原告代表者小板橋辰悟個人が右両者から導入預金の対価として利息類似の収入を収受したことはある。その余の主張は争う。

第三の三の主張は争う。

二  原告の反論

1  税務実務において三年以上さかのぼつて更正された事例はほとんどないのに対し、重加算税か賦課された事例は枚挙にいとまがないことに照らすと、国税通則法第七〇条第二項第四号の規定は、同法第六八条第一項の規定よりもはるかにその適用を制限されると解すべきである。それにもかかわらず、被告は、同法第七〇条第二項第四号の規定を恣意的に解釈、運用して四二事業年度にさかのぼつて更正したものであり、同事業年度の更正は違法である。

2  被告主張の同業者の平均経費率の算出根拠は、次の二点において違法である。

(一) 別表五の同業者「C」並びに別表六及び七の同業者「G」の各経費率は、いずれもその正確性に疑義があり、仮に正確であるとしても他の同業者に比較して著しく低率な特異事例であるので、平均経費率算出の資料から排除しなければならないのに、被告はこれらを排除していない。

右各同業者を排除して原告の一般的経費を推計するための同業者の平均経費率を算出すると、四二事業年度一八・二一パーセント、四三事業年度一六・三八パーセント、四四事業年度一五・六六パーセントとなる。

(二) 原告と同規模の同業者相当数を抽出して平均経費率を算出すべきであるのに、被告は営業規模を考慮していない。

3  原告の本件各事業年度における簿外の特別経費は、被告主張の大久保昌子に支出した給料の外次のとおりである。

(一) 四二事業年度

(1) 車両売却損 二〇〇、〇〇〇円

(2) 貸倒損失  一六五、〇〇〇円

(3) 支払利息及び割引料

原告の本件各事業年度における自己資本は、僅少で到底貸付資金に回すことはできなかつたのであり、原告の営業は、貸付資金は銀行等からの借入金で賄い、割引した約束手形は銀行等に再割引してもらい直ちに現金化する仕組であつたから、収入利息にほぼ比例して支払利息及び割引料を支出せざるを得なかつた。

ところで、原告の四四事業年度の確定申告の内容は、

<1>昭和四五年三月三一日現在の借入金残高一六六、三〇五、〇三七円 <2>年度受取利息一三、〇七三、八三六円 <3>年度支払利息及び割引料四、六九一、五〇五円であり、借入金残高に比較して支払利息及び割引料が少額であるが、これは昭和四四年九月以前の受取利息計上漏れに対応して簿外で支払利息及び割引料を支出したためである。よつて、現実の支払利息及び割引料は、右<3>の金額を右<2>の金額で除し、少なくとも年度受取利息の三五・八八パーセントと推計すべきである。

そうすると、本事業年度の受取利息と認定される金額の三五・八八パーセントから原告の申告に係る支払利息の額八四、五三八円を控除した金額を簿外の特別経費と認めるべきである。

(二) 四三事業年度

(1) 支払家賃   三〇〇、〇〇〇円

(2) 車両売却損  三五九、七七七円

(3) 固定資産除却損 一〇、八〇〇円

(4) 支払利息及び割引料

前記(一)の(3)と同様に、本事業年度の受取利息と認定される金額の三五・八八パーセント(原告の申告に係る支払利息の額は〇円である。)を簿外の特別経費と認めるべきである。

(三) 四四事業年度

(1) 支払家賃 六〇〇、〇〇〇円

(2) 支払利息及び割引料

前記(一)の(3)と同様に、本事業年度の受取利息と認定される金額の三五・八八パーセントから原告の申告に係る支払利息及び割引料の額四、六九一、五〇五円を控除した金額を簿外の特別経費と認めるべきである。

第五原告の反論に対する被告の認否及び再反論

一  原告の反論に対する認否

第四の二の1及び2の主張は争う。

同3の(一)の(1)及び(2)は否認し、(3)のうち、原告の四四事業年度の確定申告の内容が原告主張のとおりであること及び原告の申告に係る支払利息の額が八四、五三八円であることは認めるが、その主張は争う。同3の(二)の(1)ないし(3)は否認し、(4)のうち、原告の申告に係る支払利息の額が〇円であることは認めるが、その主張は争う。同3の(三)の(1)は否認し、(2)のうち、原告の申告に係る支払利息及び割引料の額が四、六九一、五〇五円であることは認めるが、その主張は争う。

二  被告の再反論

1  同業者の平均経費率の合理性について

被告の採用した同業者の平均経費率の算出根拠は、原告と同業者との業種の同一性が明らかであり、同業者の抽出について恣意の介在する余地がなく、売上金額及び一般的経費の額も当該税務署長のした実地調査の事績に基づいているので、同業者の実在性、資料の正確性が担保され、更に同業者の抽出数も資料に客観性を与えるに足る合理性を有している。このように平均率による推計の場合には、同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は無視し得るのであるから、著しく低率な者を排除しなければならないとする理由はない。

また、原告の主張する同規模とは何をもつて基準とするのか明らかではないが、同一業種内においては営業規模の大小は売上金額若しくは売上原価の多寡によつて判定することが相当であると認められるところから、仮に売上金額が被告の主張する原告の売上金額の五〇パーセントないし二〇〇パーセントの範囲内の者をもつて原告の営業規模に近似している者と認定して同業者の平均経費率を算出すると、四二事業年度は「D」が排除され一五・八八パーセント、四三事業年度は「C」及び「F」が排除され一四・二四パーセント、四四事業年度は「C」「E」及び「F」が排除され一一・三三パーセントとなり、おおむね被告の採用した平均経費率に近似するが、更にこれを下回る結果となる。

以上のように、被告の採用した同業者の平均経費率による原告の本件各事業年度の一般的経費の額の認定は合理的である。

2  支払利息及び割引料について

支払利息及び割引料の額は、本来当該事業年度における借入金の多寡、借入金の種類及び利率等当該事業年度の特別な事情によつて支出が決定される経費であり、また納税者固有の特殊な事情(例えば自己資金の多寡及びその運用方法)によつても左右されるものであつて、仮に四四事業年度における支払利息及び割引料の収入利息に対する割合が原告主張のとおりであるとしても、本件各事業年度においても同様の割合で存在するとはいい得ない。

第六証拠関係<省略>

理由

一  請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件各更正(四三及び四四事業年度の各更正については原告主張金額を超える部分)は原告の所得金額を過大に認定したもので違法であると主張するので、以下この点について判断する。

1  収入利息について

被告は、原告の本件各事業年度の収入利息(四四事業年度については計上漏れのもの)について別表二ないし四記載のとおり主張するのに対し、原告は、その一部を否認するので、まずこの点について検討することとする。

原告が四二事業年度において別表二のアサヒナの番号1、2のうち九八、八五〇円、3ないし11、13ないし18、19、のうち七七、二五〇円、20、21、東栄電化の番号1、2、3のうち二六、二五〇円、4ないし6、8ないし19の収入利息合計一、六七四、〇九九円を、四三事業年度において別表三のアサヒナの番号1、5、6、10、13、19、21、24、26、28ないし31、34、36、38、39、41、43、44、東栄電化の番号1ないし26の収入利息合計四、七八一、五九〇円をそれぞれ受け入れたこと及び四四事業年度において別表四のアサヒナの番号1、3、6、10ないし12、東栄電化の番号1ないし7の収入利息合計二、二〇一、五二〇円を申告において収入に計上せず脱漏していたことは、当事者間に争いがない。

<証拠省略>には、原告が別表二ないし四記載のその余の入金額を収入利息として受け入れたとする被告の主張にそう部分があり、右各証拠によれば、昭和四六年初めころ原告の本店所在地を管轄していた芝税務署の法人税調査担当の係官大山慶夫が原告代表者宅に赴き原告の本件各事業年度の法人税に関して実地調査をし、その後原告の取引先の調査をしたこと及び同係官が右調査の際作成した調査メモ、法人税決議書等を基に<証拠省略>の別表(一)ないし(五)を作成したことが認められ、右認定に反する証拠はないから、以下被告主張の取引先別に検討することとする。

(一)  アサヒナ関係

前掲<証拠省略>には、大山係官のアサヒナに対する調査にアサヒナ専務取締役三好弘徳及び経理部長中原剛輔が立ち会い、四二事業年度については当座預金帳より原告及び小板橋に対する支払利息を計上し、四三及び四四事業年度については総勘定元帳の支払利息と小切手の控とを照合して確認した旨の記載があり、大山証人の証言中には、<証拠省略>の別紙口はアサヒナの総勘定元帳、当座預金帳に記載されていた原告又は同代表者小板橋辰悟への支払利息を抽出し、アサヒナの取引銀行でこれに対応する小切手の入金先を確認し、支払利息であることについてはアサヒナの専務に確認したものである旨の供述があるが、他方、<証拠省略>によれば、アサヒナに対する金融先として伊藤清こと誠商事ないし同人の経営する誠商事株式会社があり(<証拠省略>によれば誠商事株式会社の設立は、昭和四四年六月六日であることが認められるが、<証拠省略>によれば、それ以前も伊藤清が誠商事の名で金融業を行なつていたことが認められる。)、これらは原告とは全く無関係であるのに、大山係官は両者が同一であるとの判断の下にアサヒナに対する調査を行なつたこと、アサヒナの帳簿は経理担当の中原剛輔がアサヒナに入社した昭和四五年四月以前は不備なものであつたこと、アサヒナの帳簿に誠商事ないし誠商事株式会社に支払つたと記載されている金員(小切手)で実際には原告の仮名預金に入金されているものもあつたこと及びアサヒナに対する調査に立ち会つたのは主として中原剛輔であり、取締役三好弘徳はほとんど立ち会わず調査結果の確認もしていないことが認められ、<証拠省略>のうち右認定に反する部分は前掲<証拠省略>と対比して採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。右認定の事実によれば、原告の本件各事業年度に対応するアサヒナの帳簿自体必ずしも正確なものではなかつたものと認められ、また、大山係官の調査は、誠商事ないし誠商事株式会社と原告とを混同し、また原告宛の支払と同代表者個人宛の支払とを区別せずすべて原告宛の支払とみなしていたことが認められ、別表三のアサヒナの番号37、38の各金額に該当する支払利息は前掲<証拠省略>の別紙(二)に記載されておらず、被告が本訴で支払利息として主張していないか、またはいつたん主張し後に撤回した昭和四三年七月一六日付二五六、一五〇円、同四四年六月一一日付九〇、〇〇〇円、同年七月五日付三四、二〇〇円、同月一〇日付九〇、〇〇〇円、同年九月五日付三四、二〇〇円が右<証拠省略>の別紙(二)に記載されていることなどからすれば、大山係官の調査は不十分なところがあつたものと認められ、更に、同係官がアサヒナの帳簿から抽出した金額がアサヒナの原告に対する支払利息であることについてアサヒナの誰とどのようにして確認したのかも明らかでない。したがつて、前掲<証拠省略>のみによつては、被告主張の各収入利息のうち原告の否認するものを原告の収入利息であると認めることはできない。

ところで、前掲<証拠省略>によれば、別表二のアサヒナの番号2、12、19、別表三のアサヒナの番号7、37、40(41と合わせて)に相当する各金員が第一勧業銀行渋谷支店の井上高名義若しくは協和銀行渋谷支店の岡田力名義又は吉田一名義の原告の各仮名普通預金に入金されていることが認められる。しかしながら、右各入金に係る金員の支払先及びその支払原因については何らこれを確認するに足る証拠はない。そして、杉江証人の証言によれば、原告代表者は本件各事業年度において原告を経営する外飲食業の有限会社スキヤをも経営し、また不動産の売買もしていたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右各預金口座が原告のみに帰属するものであることを認めるに足る証拠もないから、右各預金は同時に原告代表者個人ないし同人経営の別会社の仮名預金でもあることも推認され、それへの入金は右個人又は別会社に帰属すべき金員を入金したものであることも充分考え得るし、また、三好証人の証言によれば、借入金の元金も小切手で支払うことがあつたことが認められるから、右各預金への入金額をもつて直ちに原告に対する元金返済ではなくて支払利息であると断定することもできない。なお、東京国税局長作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については<証拠省略>によれば、アサヒナ代表取締役三好弘福及び中原剛輔名義で東京国税局長の照会に対してアサヒナの原告に対する支払利子の金額が四三事業年度四、九〇六、五四七円、四四事業年度二、一〇九、六〇〇円である旨の回答をしていることが認められるが、右各事業年度のアサヒナの帳簿自体原告と誠商事ないし誠商事株式会社とを混同した記載があるなど必ずしも正確なものではなかつたこと前記のとおりであるから、各事業年度の支払利息の合計額のみを記載した右回答の内容の正確性には疑問があり、右回答からアサヒナの原告に対する支払利息の金額を認定することはできない。

(二)  東栄電化関係

<証拠省略>によれば、東栄電化の帳簿は余り完備していなかつたことが認められ、大山係官が調査の結果原告に対する支払利息と認定した金額についていかなる根拠で原告に対する支払利息であると確認したかは右証言によつても明らかでなく、また、別表二の東栄電化の番号1、2、4ないし6、8ないし12、15、18、別表三の東栄電化の番号1ないし3、5、11、13ないし15、23、26、別表四の東栄電化の番号4の各金額に該当する支払利息は前掲<証拠省略>の別紙(四)に記載されておらず、被告が本訴で支払利息として主張していない昭和四三年七月一日付一一三、四五〇円、同四四年九月五日付二八、七二五円、同四五年二月一三日付五一、三五〇円が右<証拠省略>の別紙(四)に記載されており、右<証拠省略>の別紙(四)は別表二ないし四の東栄電化の欄と対照すると日付や金額に相違点が認められるなど東栄電化に対する調査結果の正確性には疑問があり、前掲<証拠省略>によつては、被告主張の各支払利息のうち原告の否認するものを原告の収入利息であると認めることはできない。なお、前掲<証拠省略>によれば、別表二の東栄電化の番号3、7、別表四の東栄電化の番号8(ただし、入金日は一一日)に相当する各金員が前記井上高名義又は協和銀行渋谷支店の藤井スキ名義の原告の各仮名普通預金に入金されていることが認められるが、右各入金に係る金員の支払先及びその支払原因については何らこれを確認するに足る証拠はない。そして、右各預金が同時に原告代表者個人ないし同人経営の別会社の仮名預金でもあることも推認され、それへの入金は右個人又は別会社に帰属すべき金員の入金であることも充分考え得ることは(一)において述べたと同様であり、右入金額をもつて直ちに原告に対する支払利息と認めることはできない。

(三)  東部自動車関係

前掲<証拠省略>には、昭和四二年、四三年ころの支払利息勘定には原告に対する支払利息は記帳されておらず、東部自動車代表者から右支払利息は仮払金勘定で処理されているとの申立てがあつた旨の記載があり、<証拠省略>には、原告の東部自動車に対する貸付は導入預金の形態をとつており、<証拠省略>の別紙(三)の摘要欄に社長連絡簿と記載してあるのは、東部自動車事務員松井が提出した社長連絡簿に原告又は小板橋に支払つたと記載されていた利息を抽出したものであり、同じく摘要欄に仮払勘定と記載してあるのは、東部自動車社長から原告に支払つた利息は仮払金勘定に久保田又は榎本への仮払として記載されていると申立てがあつたので、仮払金を検討してその中から原告に支払つた金額を抽出したものである旨の供述があるが、東部自動車が右のような記帳をしていたとすると、その記帳の正確性自体に疑問があり、右導入預金の名義、預金先及び預金種別、右社長連絡簿の内容、社長連絡簿の記載に対応する東部自動車の帳簿の記帳状況、同社長の申立てを裏付けるに足りる資料の有無、右<証拠省略>の別紙(三)記載の各入金額のうち摘要欄に社長連絡簿又は仮払勘定と記載されていないものにつき原告に対する支払利息であると認定した根拠等を認めるに足る証拠はないし、また、大山係官は原告名義による取引と同代表者個人名義による取引とを区別して調査しておらず、東部自動車の社名を東部自動車工業株式会社としていることなどから考えて、前掲<証拠省略>記載の同係官の東部自動車に対する調査結果の正確性には疑問がないわけではなく、その正確性を裏付けるに足る証拠はない。したがつて、前掲<証拠省略>のみによつては、被告主張の各収入利息を原告の収入利息であると認めることはできない。なお、前掲<証拠省略>によれば、別表二の東部自動車の番号1ないし6、8、9、11、12、別表三の東部自動車の番号4ないし7、9、11ないし13、16ないし33、35、36の各金員が前記井上高名義又は岡田力名義の原告の各仮名普通預金に入金されていることが認められるが、右各入金に係る金員の支払先及びその支払原因については何らこれを確認するに足る証拠はない。そして、右各預金が同時に原告代表者個人ないし同人経営の別会社の仮名預金でもあることも推認され、それへの入金は右個人又は別会社に帰属すべき金員の入金であることも充分考え得ることは(一)において述べたと同様であり、右入金額をもつて直ちに原告に対する支払利息と認めることはできない。

(四)  その余の取引先関係

アサヒナ、東栄電化、東部自動車を除くその余の取引先に関して、<証拠省略>には、原告の仮名預金の銀行調査の結果右その余の取引先が判明したので電話照会により原告に対する支払利息であることを確認した旨の供述があり、そのうち神元四郎に関して、前掲<証拠省略>には、原告社長の申立てに基づき神元のための導入預金額と預金期間とから支払利息を一応計算した旨の記載及び供述があるが、神元四郎に関する右記載及び供述から考えて、支払利息は原告に対し支払われるべきものか原告代表者個人に対し支払われるべきものかを確認したとは認められず、その余の取引先についても何人に対してどのような資料に基づいて原告に対する支払利息であることを確認したのか明らかでなく、結局前掲<証拠省略>のみによつては、被告主張の各収入利息を原告の収入利息であると認めることはできない。なお、前掲<証拠省略>によれば、別表二の(株)日良野の番号2ないし5、丸石建設(株)、三洋電設(株)の番号1ないし4、豊栄工業(株)、高松屋建設(株)及びおくむら高崎染工所、別表三の第一プロダクシヨン及び「その他」の各金員が前記井上高名義又は岡田力名義の原告の仮名預金に入金されていることが認められるが、右各入金に係る金員の支払先及びその支払原因については何らこれを確認するに足る証拠はない。そして、右各預金が同時に原告代表者個人ないし同人経営の別会社の仮名預金でもあることも推認され、それへの入金は右個人又は別会社に帰属すべき金員の入金であることも充分考え得ることは(一)において述べたと同様であり、右入金額をもつて直ちに原告に対する支払利息と認めることはできない。

以上のとおり、収入利息のうち原告の否認するものについては、これを原告の収入利息であると認めるに足る証拠はない。よつて、前記当事者間に争いのない金額を除いたその余の被告主張金額については、原告の収入利息と認めることはできない。

2  簿外の一般的経費について

被告は、原告の簿外の一般的経費を算出するに際し、原告の一般的経費の額を同業者の平均経費率に基づいて推計すべく主張しているので、この点について検討することとする(ただし、四二事業年度については売上計上漏れを認め難く、したがつて簿外の一般的経費も認め難いこと後記3の(一)のとおりであるから右推計につき検討するを要しない。)。

<証拠省略>によれば、四三事業年度については原告の帳簿類が全くなく、また四四事業年度についても少なくとも昭和四四年一〇月以前はその記帳が不備であつたことが認められ、右認定に反する証拠はないから、原告の四三及び四四事業年度の一般的経費を推計により算出し、これにより簿外の一般的経費を算出するほかないというべきである。

<証拠省略>によれば、東京国税局長は、昭和四九年九月三日付で麻布税務署長及び芝税務署長に対し、金融業のうち貸金業を営む法人(ただし、サラリーマン金融及び兼業法人を除く。)で実地調査を行なつたもののうち、原告の四三及び四四事業年度の各期間のうちの六か月以上の期間をその事業年度に営む全法人(ただし、推計により所得金額を認定したもの、更正又は決定処分を行なつたもので国税通則法の規定に基づく不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの及び当該処分に対して不服申立て又は提訴されて現在審理中のものを除く。)について右各対応事業年度の売上(収入)高、営業費(ただし、給料、減価償却費(建物)、支払地代家賃、支払利息、貸倒引当金繰入額、賞与引当金繰入額、退職給与引当金繰入額及び事業税認定損は営業費から除算する。)(右各金額は、該当法人の損益計算書確定申告書、法人税決議書等に基づき最終課税事業の金額を報告する。)及び営業費率(小数第二位まで求め、第三位以下は切り捨てる。)を報告するよう求めたこと、これに対し、麻布税務署長は昭和四九年九月九日付で該当なしと報告し、芝税務署長の同日付の報告によると、四三及び四四事業年度について該当法人はそれぞれ別表六及び七の同業者記号「A」ないし「G」の七法人であり、その売上(収入)高、営業費及び営業費率は、それぞれ別表六及び七の売上(収入)高、経費及び経費率の各欄記載のとおりであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、被告主張の平均経費率算出の対象となつた同業者は、原告と同様港区内で貸金業を営む法人のうち前記特殊事情のあるものを除き、実地調査を行なつた全法人であるから、同業者の抽出基準に一応の合理性があり、その抽出について恣意の介在する余地はなく、かつ芝税務署長の報告は、該当法人の損益計算書、確定申告書、法人税決議書等に基づき最終課税事績の金額についてされたものであるから、同業者の実在性、資料の正確性が担保されているということができる。したがつて、このような同業者の平均経費率に基づいて原告の一般的経費を推計することは一般的には合理的なものというべきであり、そして同業者の平均値による推計の場合には、同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は右平均値の中に捨象し得るものというべきである。しかしながら、別表六及び七の同業者の各経費率を検討してみると、同業者「G」の各経費率は他の同業者の各経費率に比して著しく低率であることが認められるので、右同業者「G」については、同業者の平均値の中に捨象し得ない何らかの特殊事情があるものと推認し、これを排除して平均値を算出せざるを得ず、また他の同業者については、平均偏差その他の手法を用いて、これを排除すべき特段の理由を見出すことができない。よつて、本件の場合、右同業者「G」を排除して、その余の同業者「A」ないし「F」の六法人により平均経費率を算出するのが相当である。

また、原告は、原告と同規模の同業者相当数を抽出して平均経費率を算出すべきであると主張するが、別表六及び七を検討しても売上(収入)高の多寡と経費率の大小との間に相関関係があるものとは認められず、このような業種にあつては、営業規模を考慮しなかつた一事をもつてそれにより算出した平均経費率が必ずしも合理性に欠けるものということはできない。よつて、原告の右主張は理由がない。

そこで、別表六及び七の同業者「A」ないし「F」の各経費率(前記報告によれば小数第三位以下を切り捨てて経費率を算出しているが、経費率については、切捨ては納税者に一方的に不利となるので、四捨五入方式によるを相当とし、これにより計算すると、右各経費率は、別表六の同業者「A」が一五・三二パーセント、同業者「D」が一三・八一パーセント、別表七の同業者「A」が一三・五九パーセント、同業者「E」が二五・八五パーセントとなる。)から平均経費率を求めると、四三事業年度一六・三九パーセント、四四事業年度一五・六六パーセント(いずれも小数第三位四捨五入)となる。

3  所得金額の算出

以上の前提に立つて、以下原告の本件各事業年度の所得金額を算出することとする。

(一)  四二事業年度

原告の申告に係る総収入金額が二、三六九、三四〇円であること、大久保昌子に支出した給料六〇〇、〇〇〇円が簿外の特別経費であること及び青色申告の承認の取消しに伴う貸倒引当金の繰入否認額が一四一、七八三円であることは、当事者間に争いがない。

本訴において一、六七四、〇九九円を超える売上(収入利息)金額を認め難いこと前記1のとおりであり、右は原告の申告に係る総収入金額を超えないから、売上計上漏れは認め難く、したがつて簿外の一般的経費も認め難い。そして、原告の申告所得金額一七一、〇三〇円に右青色申告の承認の取消しに伴う貸倒引当金の繰入否認額一四一、七八三円を加算し、右簿外の特別経費六〇〇、〇〇〇円を減算すると、算出所得金額は右申告所得金額を下回る。よつて、本事業年度の更正は、国税通則法第七〇条に違反し違法であるとの原告の主張について判断するまでもなく、本事業年度の更正は、原告の所得金額を過大に認定した違法があるから、取消しを免れない。

(二)  四三事業年度

(1) 原告の申告に係る総収入金額が一、二八四、三一九円であること、原告の申告に係る一般的経費の額が一七三、八二九円であること、大久保昌子に支出した給料六〇〇、〇〇〇円が簿外の特別経費であること及び貸倒引当金繰入否認額認容が一四一、七八三円であることは、当事者間に争いがない。

(2) 売上計上漏れ

原告の売上(収入利息)金額が四、七八一、五九〇円を超える事実を認め難いこと前記1のとおりであるから、右金額から前記原告の申告に係る総収入金額一、二八四、三一九円を控除した三、四九七、二七一円を売上計上漏れ金額と認めるのが相当である。

(3) 簿外の一般的経費

原告の売上金額四、七八一、五九〇円に前記同業者の平均経費率一六・三九パーセントを乗じて算出した一般的経費の額七八三・七〇三円(円未満四捨五入)から前記原告の申告に係る一般的経費の額一七三、八二九円を控除した六〇九、八七四円を簿外の一般的経費と認めるのが相当である。

(4) 簿外の特別経費

ア 支払家賃

<証拠省略>によれば、支払家賃については原告が同代表者個人の自宅を使用しているので一か月五〇、〇〇〇円位の家賃を支払うのが世間の相場であるということで審査請求の段階から経費として主張したものにとどまり、現実には支払つていないことが認められる。したがつて、これを経費と認めることはできない。

イ 車両売却損

<証拠省略>によれば、車両売却損については原告代表者が本事業年度当時自動車を毎年買い換えていたというので審査請求の段階から経費として主張したものであることが認められるが、同証言によつても真実原告所有の自動車の買換がされた事実を認めるに足る証拠はないから、原告主張の車両売却損を経費と認めることはできない。

ウ 固定資産除却損

これについては、何らの主張、立証がないので、経費と認めることはできない。

エ 支払利息及び割引料

原告は、自己資本は僅少で、貸付資金は借入金で賄つていたので収入利息に比例して支払利息及び割引料を支出せざるを得なかつたから、現実の支払利息及び割引料は、四四事業年度の確定申告の内容から見て収入利息の三五・八八パーセントと推計すべきであると主張する。

しかしながら、一般に支払利息額と収入利息額との間に相関関係が認められるものではなく、また原告の借入金額、借入先、利率等について何ら具体的主張、立証がなく、原告主張の事実を裏付けるに足る客観的な資料は何ら存しないから、原告主張の推計額を経費と認めることはできない。

よつて、簿外の特別経費は、前記六〇〇、〇〇〇円のみであると認められる。

(5) 未納事業税認定損

前事業年度の更正が違法として取り消されるべきであること前記(一)のとおりであるから、未納事業税認定損として減算すべき金額はない。

(6) そうすると、原告の所得金額は、原告の申告所得金額二九、二四五円に前記(2)の売上計上漏れ金額三、四九七、二七一円を加算し、前記(3)の簿外の一般的経費六〇九、八七四円、前記(4)の簿外の特別経費六〇〇、〇〇〇円及び前記貸倒引当金繰入否認額認容一四一、七八三円を減算した二、一七四、八五九円と認められる。

よつて、本事業年度の更正は、右所得金額二、一七四、八五九円の範囲内においては適法というべきであるが、これを超える部分については違法であり、取消しを免れない。

(三)  四四事業年度

(1) 原告の申告に係る一般的経費の額が二、六五〇、五〇三円であること、大久保昌子に支出した給料三〇〇、〇〇〇円が簿外の特別経費であること及び原告の申告に係る事業税額が一、七四〇円であることは、当事者間に争いがない。

(2) 売上計上漏れ

原告の売上計上漏れ金額が二、二〇一、五二〇円を超える事実を認め難いこと前記1のとおりであるから、右金額をもつて売上計上漏れ金額と認めるべきである。

(3) 簿外の一般的経費

<証拠省略>によれば、原告の申告に係る総収入金額は一三、四〇四、八三六円であることが認められ、右金額に前記(2)の売上計上漏れ金額二、二〇一、五二〇円を加算した原告の総収入金額一五、六〇六、三五六円に前記同業者の平均経費率一五・六六パーセントを乗じて算出した一般的経費の額二、四四三、九五五円(円未満四捨五入)は前記原告の申告に係る一般的経費の額二、六五〇、五〇三円を下回るので、簿外の一般的経費はないものと認めるのが相当である。

(4) 簿外の特別経費

原告主張の支払家賃並びに支払利息及び割引料は、前記(二)の(4)のア及びエのとおり経費として認めることはできないから、簿外の特別経費は、前記三〇〇、〇〇〇円のみであると認められる。

(5) 未納事業税認定損

前事業年度の所得金額二、一七四、八五九円に対する事業税額は、地方税法(昭和四九年法律第一九号による改正前のもの)第七二条の二二第一項の規定により次のとおり一五〇、六六〇円と算出されるから、右金額から前記原告の申告に係る事業税額一、七四〇円を控除した一四八、九二〇円を未納事業税認定損として申告所得金額から減算すべきである。

前事業年度の所得金額2,174,859円のうち

1,500,000円以下の金額の100分の6

1,500,000円×(6/100)= 90,000円

1,500,000円を超え3,000,000円以下の金額(1,000円未満切捨て)

の100分の9 674,000円×(9/100)= 60,660円

合計 150,660円

(6) そうすると、原告の所得金額は、原告の申告所得金額二、九九三、九九三円に前記(2)の売上計上漏れ金額二、二〇一、五二〇円を加算し、前記(4)の簿外の特別経費三〇〇、〇〇〇円及び前記(5)の未納事業税認定損一四八、九二〇円を減算した四、七四六、五九三円と認められる。

よつて、本事業年度の更正は、右所得金額四、七四六、五九三円の範囲内においては適法というべきであるが、これを超える部分については違法であり、取消しを免れない。

三  次に、本件各決定について判断する。

四二事業年度の更正が取り消されるべきものであること別記のとおりであるから、右更正を前提としてされた同事業年度の重加算税賦課決定も違法として取消しを免れない。また、四三及び四四事業年度の各更正のうちそれぞれ所得金額二、一七四、八五九円及び四、七四六、五九三円を超える部分が取り消されるべきものであること前記のとおりであるから、右各更正を前提としてされた右各事業年度の重加算税賦課決定もそれぞれ右に対応する部分について違法として取消しを免れない。前掲<証拠省略>に前記二認定の事実を合わせると、原告は第一勧業銀行渋谷支店に昭和四二年二月一六日から同四四年一月二四日まで井上高名義で、協和銀行渋谷支店に昭和四三年六月八日から同四四年二月一〇日まで岡田力名義で、同月一三日に吉田一名義で、同月二〇日に藤井スキ名義でそれぞれ原告の仮名普通預金口座を設定し(原告が第一勧業銀行渋谷支店に昭和四二年二月一六日に井上高名義で原告の仮名普通預金口座を設定したことは、当事者間に争いがない。)、四三及び四四事業年度において別表三のアサヒナの番号1、5、6、10、13、19、21、24、26、28、29、34、38、39、41、43、44、東栄電化の番号1、4(ただし、入金日は一五日)、7ないし10、12、16、17、20、21、23、25(ただし、入金日は一〇日)、別表四のアサヒナの番号1、3、6、10、11、東栄電化の番号2、5(ただし、入金日は二七日)の各収入利息を前記各預金口座に入金していたにもかかわらず、四三事業年度においては別表三のうちの右各収入利息の一部を脱漏して法人税確定申告をし、四四事業年度においては別表四のうちの右各収入利息を脱漏して同申告をしたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右認定の行為は、国税通則法第六八条第一項に規定する納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した行為に該当する。よつて、四三及び四四事業年度の各重加算税賦課決定のうち前記取消しを免れない部分を除くその余の部分については適法というべきである。

四  結論

よつて、原告の本訴請求は、四二事業年度の更正及び重加算税賦課決定、四三事業年度の更正及び重加算税賦課決定のうち所得金額二、一七四、八五九円を超える部分並びに四四事業年度の更正及び重加算税賦課決定のうち所得金額四、七四六、五九三円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 菅原晴郎 成瀬正己)

別表一~七<省略>

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